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仙台高等裁判所 昭和34年(ネ)41号 判決

控訴人(原告) 岩田与衛治

被控訴人(被告) 国

原審 盛岡地方昭和三三年(行)第二四号

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、原判決を取消す。岩手県和賀郡東和町鷹巣堂第六地割一八五番田一畝一六歩につきした買収処分は無効であることを確認する。被控訴人は控訴人に対し右農地につき農林省名義でした買収処分を原因とする所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の陳述及び証拠関係は、次に記載する事項のほか、すべて原判決摘示事実と同一であるからこれを引用する。

控訴人の陳述

末尾記載のとおりである。

被控訴代理人の陳述

被控訴人の従来の主張に反する控訴人の主張事実は全部否認する。

理由

(一)  原審は、控訴人の国を被告とする本件農地買収処分無効確認の訴は、被告適格を有しない者を被告として提起した不適法な訴であるとしてこれを却下した。

なるほど、原審が説示するとおり、行政事件訴訟特例法第三条が、抗告訴訟につき処分行政庁を被告として提起すべき旨規定したのは、行政処分に取消すべききずがあるかどうかが争点となることが当然に予想されるから、当該行政処分をした行政庁に当事者能力を認め、直接攻撃防禦の方法を尽させることが適正・迅速な解決が期待できるとの見地から規定したものであり、行政処分無効確認の訴につき右特例法第三条を準用すべきものと解すべきであろう。

しかし、行政庁は国の機関として行政行為を行うものであり、その主体は国であるから、抗告訴訟であると行政処分無効確認訴訟であるとを問わず、本来は国を被告として提起すべき筋合であり、特例法第三条が抗告訴訟につき処分行政庁を被告として提起すべき旨規定したのは、以上の便益を考慮し、行政庁にいわゆる形式的当事者能力を認め、これを前提にかく規定したに過ぎない。それゆえ、当事者が処分行政庁を被告としてその無効確認訴訟を提起した場合は、特例法第三条を準用して、かかる訴も適法であると解すべきであるが、行政行為の主体である国を被告として無効確認訴訟を提起した場合には、同条を準用する余地なく、一般原則により適法と解すべきであり、本訴は適法である。

(二)  そこで、本件農地買収処分の無効確認並びに所有権取得登記の抹消登記手続を求める請求の当否につき判断するに、当裁判所は次に判断を付加するほか、事実の確定及び法律判断については、原審と所見を同じくする(農地買収処分の無効確認請求については原審が所有権取得登記の抹消登記手続請求につき判断したと同一である。)から、原判決の理由中当該部分を引用する。

(1)  控訴人は本件買収は世界人権宣言(人権に関する世界宣言)第一七条に違反しかつ基本的人権を侵害する無効のものであると主張するもののようである。

世界人権宣言は、昭和二三年一二月一〇日第三回国際連合総会で採択されたものであり、条約でなく、わが国の法令とすることはできないが、その趣旨を尊重すべきであることはいうまでもない。

しかし、旧自作農創設特別措置法及び同法施行令が右宣言の精神に反するものではなく、本件買収がその趣旨に反するものでも基本的人権を侵害するものでもないから、控訴人の主張は理由がない。

(2)  控訴人はまた旧自作農創設特別措置法施行令第二一条(売渡期限を定めた規定)を削除した昭和二三年一二月二七日政令第三八三号は、私的に制定されたものであり、これにもとづく本件農地の買収は無効であると主張するが、右主張事実はとうてい認めることができないから理由がない。

(三)  したがつて、本件農地買収処分は適法というべく、これに重大かつ明白なきずがあることを前提に無効であることの確認を求める控訴人の請求は失当として棄却すべき筋合であるが、付帯控訴のない本件において、控訴人の不利益に原判決を変更することはできないから、この部分につき訴を却下した原判決を支持すべく、原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、民訴法第三八四条・九五条・八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥羽久五郎 羽染徳次 兼築義春)

控訴人の陳述

(一) 自創法施行令第二十一条削除は自創法の理念上速断を要し進捗を計る必要上設けたと判断したとあるが原告の思案として昭和二十三年十二月三十一日の予定では昭和二十三年十二月十日の世界人権宣言の施行により同法第十七条の一二以下の法則により人間は自由単独に財産を所有する権利を有すると宣言して居るから此宣言を守らなければならないから観念性の高い吉田茂と農林大臣の周東英雄は速かに自創法の活動を阻止せんため削除したものである。是れに対し昭和二十四年一月十四日農林省農政局長通牒により農地買収は打切りではなく買収期日の追加と称して昭和二十四年三月二日を追加して私擅恣意不法の通牒買収を企てたり是れに対し原審裁判所は違法ではないと判決したり

是れに対し原告控訴人の主張する訴は政令の公布は天皇の権利にして削除や訂正は主任大臣に総理大臣の副署を要するなり斯の如く深重を要する而して買収は国民の権利義務を左右する重大事件なるのに法律を以てしても制約することの出来ない基本的人権を侵害左右するのに農政局長の如き一個の書記徒輩の一片の通牒の如きを以て天皇の権利を侵して政令を追加変造して一般国民を軽視瞞著して基本的人権を侵害して天皇の神位権を弄する不法極まるものに対し一審判決は違法にあらずとは審理不尽の違法あり人権侵害の違法判決なり

是に対し一審判決は通牒訓示買収なりと之れに対し学説判例共に訓示規定は一般公衆を拘束するものにあらず訓令通牒の類は上級庁と下級庁との打合せのみにして一般公衆を拘束する権利義務を発生するものにあらず何者触れても刑罰なし洵に認識不足の判決なり

(二) 不在地主の定義は買収及没収の原因とはならない他町村なるが故に土地を所有することは出来ない理由はない唯々基本的人権を侵害することを希望するに過ぎない剰さえ没収とは基本的人権の侵害と犯罪である他町村でないから買収没収の原因は消滅した速かに没収を取消すべきである直ちに混同による消滅を認むべしとの判決を求む。

(三) 所有権移転の効力に付陳べる原告が成立を否認する自創法の手続を経たからと云つて物権移転の効力を履まざる無原因の没収財産は如何なる名義は存在するとも無効は無効なり被告国の所有権は其存在を否認する。

(四) 昭和二三年十二月十日付の世界人権宣言公布に付考ふるに概して自創法の不成立と無効を宣言したると何等異る訴なし即ちポツダム宣言は昭和二十年七月二十六日の無条件降伏の予告通達にして同八月十五日降伏九月二日の調印にして基本的人権の宣言により確立せられたりと謂ふべし然らば昭和二十一年十月二十一日の公布自創法は不成立無効のものなり即ち事実無根の法律施行せらる基本的人権は法律を以てしても制約すること許さず然らば此自創法に基きて為したる農地買収は悉く無効なり更に原告の農地買収は施行期日終了後の昭和二十五年九月十三日の私擅訓示買収にして全くの無効なり

(五) 本件農地に付小原十次郎なるものに小作も作り子も託したることなし全く不法不意の作付にして全くの無効なり

之れに対し小作地として買収と称して私に没収したり之れ即ち無効他

(六) 自創法は不成立無効にして被控訴人に所有権移転の事実あるべき筈はない一審判決は代金の支払有無供託の通知の有無により所有権移転の効力に関係なしとの判決は基本的人権の侵害判決にして憲法第八一条及九七条九八条の一、二に基き無効を主張する。

(七) 我国の民主主義及基本的人権尊重の国に於て行政行動として政令で終期を昭和二十三年十二月三十一日を二十七日に短縮したり削除してあり乍ら同じ政府の役人であるものは末端に於て間もなく昭和二十四年一月十四日私擅通牒を発令し同年九月十三日農地買収の私擅没収を為したり加之農林省令を以て小作料を制限することは出来ない何れも基本的人権の侵害なりとす二十三年十二月十日の世界人権宣言は一の条約にして早速此条約を公布するに当り人権の侵害を目的とする自創法ありては其妨げとなるにより其期日を消除して短縮し手足のない自創法を残し是れを根拠として私擅買収を企てたり之れに対し第一審判決は訓示買収なりとの判断を下したり詢に以て不当なりとす

(八) 買収令書の交付に就ての公告は県公示はしてあるも控訴人は在宅であり居所不明のものではないから県公示は無効である一片の郵便送付で足るものを故意に告示して通知もなし不法甚しと言ふべし供託の通知もなし

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